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この議論にはある大前提が存在しているように思えます。


青色のニカブ(ヒジャブと呼ばれるベールの一種)を被ったその女性の目は、
僅かに空けられた隙間から確認することが出来ます。
彼女は2009年にストックホルムのVästerortにある専門学校に入学し、
保育助手になるべく勉強に励んでいました。
しかしある日学校側から、ニカブの着用を続けるのなら退学にすると通告されました。
彼女はこれを宗教的な差別に該当するとしてDiskrimineringsombudsmannen
(DO,人種差別禁止オンブズマン)に問題の報告をしました。
その学校は、
2003年にSkolverket(教育庁)が教育機関においてスカーフ等で顔を覆うことを禁止した際、
国に強く圧力を掛けていたことで知られています。
ただ彼女はDOによる判断が下されるまでの期間は授業を受けることを許可されました。


そしてDOが下した判断はこうでした。
ニカブを着用しているという理由だけで彼女を教室から除外することは、
彼女の特定の事情を考慮したとはいえず、それは差別を禁じた法に反している。
学校の関係者が顔の識別を必要とする場合には女性もそれに応じると答えたため、
参加を拒むことは行き過ぎであるとしています。
この判断を示したオンブズマンは、
ニカブ着用の議論が為される際に「憎しみが簡易化」されていることに懸念を示しており、
「女性抑圧の象徴である」スカーフの問題と戦わなければならないという、
正当化された憶説に異を唱えています。
この決定はスウェーデンの反差別法が2009年に新たに制定されて以降、
ニカブやブルカといったベールに関する最初の判断となりました。


この問題への世間の関心が高まった理由として、
昨年行われた総選挙中に教育大臣が、教師や保育士のニカブ着用は禁止すべき、
と発言したことが挙げられます。
今回の決定に対して、彼はコメントすることは避けています。
「教育は、眼や顔の表情を通して自身を表現するといった、
莫大な量のコミュニケーションによって行われます」
と大臣と同じFolkpartiet(自由党)の議員は答えます。
「教室でのベール着用を禁止するために、法律や学校の原則を変更する必要があるのか、
我々は深く議論する必要があります」
しかしDOの教育部門長は法の改正について
「この国の憲法EUの人権条約にも反する」という見解を示しています。
「しかしこれは当然、政治家の問題であって、彼らはそれを推進する権利を持っています。
けれども我々は反対です」


今回DOが示した判断は、
生徒に対してベール着用を禁止することはできないということであって、
教師や保育士がそれを着用できるかどうかの問題は範疇外です。
つまり、この女性が将来この職業に就くためにはまだ課題が存在するということです。
またDOは、学校側は判断が下されるまで女性の授業への参加を認めていたため、
裁判所にこの問題を持ち込まないことも決定しています。
これについてスウェーデンの人権事務所は、
裁判所はこの問題を取り扱うべきだと抗議しています。


その憶説や前提を了承しているのは多数派側ということです。
Free / Sami Yusuf 2005年