Ne T'en Fais Pas Pour Ca

どうしてあなたは・・・。


今年開かれたFestival International du Film de Cannes(カンヌ国際映画祭)、
その大賞であるPalme d'Orを争うコンペティション部門に
北欧からはデンマーク人のLars von TrierとNicolas Winding Refn、
フィンランド人のAki Kaurismäkiの3名が名を連ねました。
Trier監督は2000年の『Dancer in the Dark』で賛否両論を受けながら大賞を受賞、
2009年『Antichrist』では大ブーイングを浴びながら女優賞を獲得しています。
そして今回のカンヌへは最新作『Melancholia』を引っ提げて乗り込み、
5月18日の初上映では現地の映画関係者やファンからは上々の評価を得ることに成功しました。
しかしその後に行われた記者会見によって、
人々の興味の対象は作品から監督自身へと向かうことになります。


Trier監督は現地の反応の良さに気をよくしたのか、
出演者に私の作品には裸が多いことを指摘されたから次はポルノを撮るよ、
という冗談が出るほど、会見の途中までは良い雰囲気で時間は流れていきます。
そんななか、ある記者がナチスの美意識とその魅力に関する質問をしたことで、
今年のカンヌ最大の問題が発生します。
彼の答えは「私はユダヤが良かったけど、実はナチスだった」や
「私はHitlerを理解する」そして「私はナチスだ」といったものでした。
この発言を会見冒頭からの流れから監督流のジョークであると判断する人もいましたが、
カンヌには好ましく思わない人の方が多くいたようです。


この会見後に映画関係者による400人規模の祝賀パーティーが行われる予定でしたが、
会場となるレストラン側がTrierの出席を拒否する事態が起きます。
翌19日になると映画祭の事務局は臨時会議を行い、
監督の発言は容認できないとして事実上の追放を言い渡します。
この決定前に彼は記者会見を開き一連の発言に対して謝罪を表明しました。
「私の発言が沢山の人の怒りに触れたことをお詫びします。
でも文脈以外の部分も理解することも必要なことだといいたい。
これはデンマーク流のユーモアともいえます」
しかしながら、これが受け入れられることはありませんでした。


『Melancholia』の出演者は彼の発言をどう見たのでしょうか。
友人であり本作に花嫁の父親役で出演したJohn Hurtは、
あの発言について監督に代わってお詫びするといいました。
「あれは非常に軽率な発言でした。
欧米にはタブーがいくつか存在していて、あれが正にそうでした」
「Larsが挑発者で無責任な男だと思われることは非常に残念です。
でも彼はとても上手い監督でありユニークな作家です。
それが私たちがここにいる理由なのです」
Jesper Christensenはこうした対応をとった主催者を恥ずかしいと批判しています。
「カンヌはスポンサーからの圧力に屈したように思う。
監督の発言は恥ずべきものではないはず」
「彼は緊張からああいう言葉を口にしたのかもしれない。
けど、私の中では彼は最も優秀な映画監督です。
どんなに小さな役でも彼の映画に参加するよ」
主演のKirsten Dunstもあの発言が監督の作品を否定するものにはならないとしています。
「Larsの衝撃的な言葉の数々は間違っていたと思う」
「私は是非もう一度監督と仕事がしたいです。
彼の作品に出演した人ならみな同じことを言うでしょう。
あの発言が彼の作品にどのような影響を与えるかはまだわからない」


『Drive』で監督賞を受賞したREFNは、この騒動にうんざりしているようです。
「Larsの発言はとても受け入れられるものではなかったように思う」
「彼の発言にはとてもうんざりしている。
それはあの発言が私の家族や他の人達にも影響を与えかねないから。
でも彼がどういった人生を歩もうが私には関係ありません。
彼はもう60歳近いのですから」


監督の発言を受けてイスラエル・アルゼンチン、
チリといった国々配給会社がこの作品の上映を拒否することを表明しています。
監督不在の中執り行われたカンヌ映画祭の授賞式では、Kirsten Dunstが女優賞に選ばれています。


カンヌは一体何処へ向かうのか・・・。
Ne T'en Fais Pas Pour Ca / Dalida 1962年