Still There

8月3日地点で死者77人、負傷者153人。


あの日、自然を貫くような叫びがありました。
7月22日にノルウェーで起きた連続テロ事件を非現実的、
あるいは悲劇という言葉で表現することは簡単ですが、
あの日の光景を思い出すたびに、それらは無意味なもののように感じられます。
世界でもごく僅かである平和と名の付いた賞を授与する国で起きたテロは、
結局何も変えられなかった大統領に付与したこと以上に賞そのものの価値を問われることになり、
そして国際的なノルウェーの信用を失いかねない出来事であったといえます。


スペインやイギリスで起きたテロ事件を遠い国の事としていた彼らにとって、
なぜノルウェーでこのような事件が発生したのか、
市民の間には尽きない疑問が広がっています。
いずれのテロ事件と今回のオスロの事件と異なる点は、
極めて右派的思想を持つナショナリストによる犯行だったことです。
逮捕されたのは怪物ではなくノルウェー人で、
彼がネット上で公開した十字の表紙をした文章では現政権を強く批判し、
移民を受け入れ続けるヨーロッパの将来を憂慮していました。


ナショナリズムが歴史上最も栄えた土地であるヨーロッパでは、
近年その熱がまた政治の舞台に戻りつつあります。
北欧もその例外ではなく保守政党の台頭が見られ、
デンマークではDansk Folkeparti(国民党)が閣外協力、
フィンランドではPerussuomalaiset(真のフィンランド人)が第3党、
そしてノルウェーではFremskrittspartiet(進歩党)が第2党と幅広い支持を受けています。
その影響は社会でも顕著に表れていて、
今回のテロ攻撃の一報が流れた際にはメディアは第一に武力勢力の関与を疑い、
そしてこの事件を分析する際には原因のひとつとして移民を挙げる人も多くいます。


ノルウェーはその地理的条件や歴史的背景からとても開かれた社会が築かれていて、
それが今回のような攻撃の前にその脆さを露呈したともいえます。
それでもJens Stoltenberg同国首相が会見で述べたように、
国民もまた暴力では社会を破壊することはできないことを理解しているはずです。
確かに、この事件の実行者である被告に特例として死刑を望む声も挙がっています。
しかしながら、その男を逮捕することでこの国は彼との対話を選んだともいえます。
犠牲者を追悼すべく通りを埋め尽くした人と花々、そしてUtøyaから生還した若者、
これらに国民はノルウェーの将来を思い、
そしてそれを信じることで新たな一歩を踏み出そうとしているといえそうです。


日本語に訳された首相の会見はこちらで見ることができます。norway.or.jp

Still There / Tord Gustavsen 2007年