Doralice

一生に一度の晴れ舞台はどこでしょう。 hs.fi


「どうして扉が閉まっているの?」
ヘルシンキ中央駅西口の閉ざされた扉を前に、10代の少女は文句を口にしています。
彼女はこれから数分後に駅のホールを利用して結婚式が執り行われることを知りませんでした。
ここで式を開くふたりにとって駅は極めて重要な場所です。


電子オルガンの演奏による結婚行進曲が巨大なスペースを包み込み、
そのなかを歩く幸せなカップルは牧師の前で立ち止まります。
祭壇もないこの結婚式の唯一の装飾は、Eliel Saarinenが設計したアーチ型の窓ガラスだけです。
牧師が新郎新婦に言葉をかけようとしたとき、アナウンスが聞こえてきました。
「Tampere行きのInterCity2が発車します」
行き交う通行者のなかには結婚式を見かけて歩みを止める人もいますが、
5人の警備員が忙しく彼らに通行を促していきます。


本日の主役である新郎と新婦は30年前に出会いました。
ふたりがまだ10歳の時、Hämeenlinna近郊のLammiにあるコテージで出会い、
小屋の中でピンポンを楽しんだり豆鉄砲で遊んだりしているうちに、
お互いに惹かれ合うようになりました。
「彼はstadin kundi(都会の男)でした。
あのころの私には彼のことが好きだと認める勇気がありませんでした」
と新婦は言います。
この魅力的な休日以降、ふたりは数十年間も逢うことはありませんでした。


それが数年前、別々の道を歩んでいたふたりが偶然にも再会します。
初デートはこの駅のホールにコーヒーを飲みに来たことでした。
「私はこの場所に導かれたのが直ぐにわかりました」
言い換えれば、彼にとってここは「I do」を言うべき場所であり、
買い物客が家路を急ぐ館内で彼女が「I do」と誓うところでした。
背後からは誰かの好運を告げるスロットマシーンの鐘の音が聞こえてきます。


結婚式を始めて20分も経たないうちにふたりの新婚生活は幕を開けます。
警備員が扉を開くと、瞬く間にホールは駅利用者で埋め尽くされました。
このような公共の場所で結婚式を挙げる気分はどうなのでしょうか?
「緊張していたので何もかも忘れていました。本当に感謝しています」
とふたりは言います。


これはヘルシンキ中央駅で最初に行われた結婚式となりました。
「一種の奇妙な出来事とも受け取れますが、私はユニークなことだと感じています」
VR-Yhtymä Oy(VR)の広報担当責任者は述べています。
実際にはこの大きな駅のホールでは様々な催しが行われていて、
展示会や商業的なイベントが開かれることもあります。
「商業的なイベントでなければ、基本的に無料で利用可能です」
VRの不動産管理担当者は言います。
しかし私用で駅全体を利用することは不可能だとも述べています。
広報担当責任者は駅での結婚式が一般的になるとは考えてはいません。
「駅は一般的な結婚式場にとって変わるような場所ではありません」
とこれを機に駅で結婚式を挙げようとしたカップルの期待に反する意見を述べています。


日本に置き換えると新宿駅、あるいは東京駅で結婚式を挙げたということになります。
信じられない。
Doralice / Stan Getz & Joao Gilberto 1963年