僕らの一歩

初監督作品の資金相場は100万円と聞いたことがあります。


Ingmar Bergmanの監督作品やPippi Långstrump(長くつ下のピッピ)、
最近ではthe Milenniumシリーズといったスウェーデン映画の名作は、
国の規模を上回るほどの名声を獲得することに成功しています。
人口900万人に過ぎないこの国で制作された映画の数々は、
多くの国際的な映画祭に出品され上映を果たしています。
今年もAcademy Award(アカデミー賞)の短編部門において、
2つのスウェーデン映画が候補作に選出されました。
素晴らしい国内の映画学校は次々と俳優や監督に作家、技術者を輩出し、
国内のみならず外国でも良質な映画を制作しては発表の場を得ています。
大作と呼ばれているものを除いて、
これらの成功はユニークな資金制度の恩恵を受けた結果といえます。


「不安定な市場だけに、我々は映画で儲けようとは考えてはいません」
とFilmhuset(国立映画協会)の制作長は言います。
この協会はスウェーデン国内で最大の金融支援を受けていて、
彼女は映画を制作するか、あるいは破棄するかの決定権を持つ映画委員を束ねる立場にいます。
彼女が言うには、ほとんどのスウェーデン映画は制作中や制作後に、
同協会からの資金援助を受けることになるということです。
協会側は制作を補助する事に念頭に置いているため、
その映画が稼げるものなのかは判断しない、ともしています。
そして完成した映画の試写会を開いては、
その映画が外国で配給されるか、または映画祭で品評を受けられるか、
といった潜在性をそこでは確かめています。
この協会の主な目的のひとつとして、
豊富な資金で制作された定格映画、例えばハリウッド映画から、
スウェーデン映画を保護する意味合いがあります。
協会に資金提供しているのはスウェーデン政府だけではなく、
公共・民間放送局もまた参加しています。
1964年に同意が交わされて以降良好な関係が続いていましたが、今それは危機に瀕しています。


契約期限である2010年に内容の見直しが議論されましたが同意には至らず、
やむなく現在のものを2012年まで延長することになりました。
資金調達をより簡素化して政府が資金のすべてを提供する案が示されていますが、
制作長はそれには問題点があることを指摘します。
「政府が唯一の制作資金の提供源だとしたら、それは資金の減少を意味します」
名の知られた映画監督であり協会の映画委員を務めていた女性は、
新作に取り組むために協会の職を辞任しました。
自らの監督作品に、委員として多くの資金を提供していましたが、
必ずしも資金が潤沢であったわけではないと彼女は言います。
映画の資金調達をする方法は2つあるとされています。
ひとつは国内の2大配給会社の関心を得ること、
そしてもうひとつは国内最大の映画館運営会社の興味を引くことです。
いずれも興行的な成功にのみ関心があるといえ、
他の映画制作との兼ね合いが考慮されがちです。


スウェーデン国内ではハリウッド映画とイギリス映画が支持されています。
過去10年、国内での興行収入上位10作品を見てみると、
10作中7作がアメリカとイギリス制作作品で、残り3作がスウェーデンでした。
このこともあって、
スウェーデンの映画監督作品の初日は、ハリウッドの大作公開日を避ける傾向があります。
「国立映画協会を失うようなことが起きたら、芸術作品が制作されなくなるでしょう」
と彼女は言います。


協会からの資金提供なしに映画制作しているある男性は、
スウェーデン国内では数少ない独立系映画制作人です。
彼は主にSF系の映画を中心に制作してきましたが、
販売代理店に直に映画を卸すことは難しいといいます。
彼は最新作として3D撮影の心理ホラーを取り終えたばかりです。
ネットは伝統的な既存のメディアルートの外で映画制作を可能とすると彼はいいますが、
それが販売代理店のようなブローカーに取って代わるとは見ていません。
彼のことを独立系の先駆者と見る向きがありますが、それを本人は否定します。
「制作には2つの方法があって、私のはまったく保護を受けないというだけです」


芸術作品とはいわれますが、映画そのものが大衆的な要素を含むものだけに、
客が入らなければ駄作と見られても仕方がない面もあります。
反対に、客が入れば映画としての価値が上がるかというと、そうでもありません。
大衆の望む映画と製作者が考える映画が、ぞれぞれ別の道を歩んでいるように感じられます。
僕らの一歩 / TRICERATOPS 2006年