Fresh From Yard

国を離れるという決意。


コペンハーゲンのBrønshøjにあるその家には、
リビングに子どもたちが描いた絵が、台所の壁には食品ピラミッドが飾られています。
ここに暮らしているのは、デンマークで生まれ育ったパキスタン系移民の二人。
彼らはこの国では二級市民のような感覚があるようで、この土地を離れることを決意しました。
二人は共に36歳、デンマークの政治家が社会への同化を求める少数派移民に分類され、
女性は医者、男性はコンサルタントの職に就いています。
彼らは、国を離れる決意を迫られるような嫌がらせを感じているようです。


昨年デンマークでは新移民法が導入されました。
そのポイントシステムの一条件である〔社会の福祉に貢献する〕という点は、
デンマークで生まれ育ったふたりは満たしています。
「今妻は出かけているけれど、たぶん、
私が家について台所に向かう間にムスリムへの偏見に関する話題を書けるはずです」
と笑いながら男性は言います。
修士課程を修了した彼ですが、家では家族から配管の修理を頼まれている身です。
しばらくすると、自宅からほど近い病院に勤務する彼女が休憩のために帰ってきました。
ふたりはとても幸せそうな笑顔を見せていますが
「仕事や政府の承認について不安があるわけではない。
将来は明るいように感じている。でもそれはデンマークではない」
と彼はいいます。


社会から疑惑と議論の対象に見られる理由として、
彼らの肌の色とパキスタン系であることが関係しているようです。
「私たちは二級市民という烙印が押されています。
保護されるべきだと主張することは、
この国で生まれた私たちにとって気分のいいものではありません」
と女性は言います。
そして「この国には間違っていることがいくつもある」
と彼が付け加えます。
「今後もこの国で生活していく光景が想像できない」


「このことについて沢山の友人と話をした結果、みながそう感じているようです。
最悪なことに、私たちはこの負のサイクルの出口を見つけられないでいます。
今置かれている状況は、こどもにとってとても良くないものです」
と彼女は言います。
そして2歳と7歳の子どもが、将来は日常生活のなかで様々な問題に直面すると予想しています。
「テレビでどのような情報が流されているかを、
彼らは成長するたびに段階的に理解することになる」ということです。


実際に、どのような情報がテレビから流されているのでしょう?
「バス停に立つ乳母車を抱えた人とふたりの老婦人のお話です。
彼女たちは、泣くのなら子猿?(おそらく差別用語)の口を押さえていなさい、
と言ってきます」と彼は言います。
「その主張が最悪であることは明らかです」
「人々は暗黙の了解を承認して、彼らはそれを更に強固なものに出来る何かを探しています。
それはメディアによって、そして路上や政治の世界でも行われています。
誰も干渉しようとはしません。でもそれは変えるべきものです。
市民は問題を提示されては簡単にそれを受け入れているのです」
「移民が社会の足枷になっている、
あるいは高学歴の女性でさえスカーフで抑圧されている、という説明をしています。
私たちが受けているのは差別です。
テレビの電源を入れる、または路上を散歩するときに、
我々は自分自身を守る必要があるのです。
厳しい言い方をすれば、精神的な強制収容所にいるようなものです」


彼らがデンマーク社会に消極的である以上に、
社会の移民に対する理解が不足しているという意味でしょうか?
「十分な議論が為されないままに時間だけが過ぎました。
デンマークに移民が登場してから40年以上経過しています。
その間の議論は過激なものと極端なものばかりです」
と彼女は言います。
これらがこの家族がデンマークを離れることを決意した理由です。
「何時ここを旅立つか、また何処へ行くかは決めてません。
ただ離れるための資金はもう集め始めています」



おそらく移民二世のふたりは、職に就いており金銭的な不満も口にはしていません。
ただそれ以上に世間の風当たりや国の制度に疲弊しているように感じます。
Fresh From Yard / BEENIE MAN Ft Lil Kim 2002年