未来になる

これは3月1日のお話。


昨年の夏、フィンランドの電力会社Fennovoimaは、
議会から新規原子力発電所建設の承認を得ました。
候補地はSimoのKarsikkoとPyhäjokiのHanhikivenniemiの2カ所で、
今年の夏に建設都市を決定して来年から着工、2020年に原子力発電の運用を始める予定です。


Simoは人口3500人の小さな町です。
そこに建設される発電所は町を劇的に変化する可能性があります。
この発電所によって固定資産税収入として500〜700万EUR(6億〜8億円弱)が見込まれていて、
これは現在の市の予算にしておよそ1/3を占める額が増加することになります。
建設中は常に3500人の作業員が半年以上駐在する予定で、
彼らの多くは市税をこの町へ落とすことでしょう。
また彼らのための仮設住宅や建設に使用する大型工具を取り扱う店も必要となります。
つまり、Simoに止まらず周辺都市も運用開始までの間に多くの恩恵を受けると見られています。
「このジャックポットは工事期間中、つまり2020年まで継続するはずです」
とSimo市長は言います。
これはもちろんPyhäjokiでも同様の経済効果が期待されています。


ただし、誰もが手放しに喜んでいるわけではありません。
「我々がNIMBY思想を持っていないわけではありません」
とPyhäjokiにある環境団体会長は言います。
以前から原子力発電に否定的だった彼女は、
建設計画が発表されたときに何か行動しなくてはと思ったようです。
そして彼女は市議会議員選挙に出馬して当選を果たしました。
「私たちは未来を犠牲にしてまで自分たちの幸福を追求する必要があるのでしょうか?」
「そのころには我々はもう死んでいるのだから何が問題なんだとして、
追求すべきと答える人もいるでしょう。
これは原子力だけに限った話ではなく、あらゆることに該当するものです。
このような考えは間違っていると思う」


バルト海北部沿岸に位置するKarsikkoはユニークな自然環境を有しています。
発電所が海に有毒なものを排出することはなくても、
絶え間なく暖かい冷却水を放出することになります。
「冷却水の排出によって富栄養化するだろう」
とKarsikkoにある環境団体会長は言います。
「港の富栄養化に加えて、パルプ工場から排出された昔の紙の毒素はまだ海底に残っています。
と事務の女性は話します。
「冷却水によって海底の毒はどうなるのでしょうか?」
他にも周辺海域の海水温の上昇は魚の生息域を変化させる可能性もあります。


Fennovoimaが実施した独自の調査によると、
原子力発電に反対する人の数はSimoよりPyhäjokiが多いということです。
ただいずれもこの計画に賛成する人の数は過半数を占めています。


未来になる / 松たか子 2005年