Turbulence

ある視点。


「これはノルウェーのマスコミが直面した最も厳しい事件です。
これほどの困難はジャーナリストになってから、
そして私が生まれて今までの60年で経験したことがありません」。
Institutt for Journalistikk(IJ)の所長はノルウェー連続テロ事件についてこう言います。
この事件はノルウェーメディアの新たな基準を作る可能性がありそうです。
「IJの所長という立場から今回の報道を分析したところ、
我々が作成した優れたジャーナリズムと放送倫理のための倫理規定と報道規定、
これらが守られていることが確認できています。
もちろんいくつかの例外も存在していますが、特にTV2とNRKは良く守られています」。


彼はこれがとても大きな災害であり後から振り返ることは容易だとしつつも、
だからといって椅子に座っているだけではいけないといいます。
「調査では批判が集中した記事などは確認されていません。
この国の記者は市民に有益となる貴重な情報を届ける意欲に満ちています。
それでも我々はマスコミがどのような報道をしているのか見届ける必要があり、
そして我々の使命としてはその結果を公表することにあります」。


「インタビュー音声や社説、記事等を対象にこうした調査を行い、
矛盾しているものや明らかに間違っているものがないかを確認しています。
そうした結果今回の報道では良い仕事が為されていることが明らかになっています」。
「ただ見落とす点はあるし、我々が何らかの失敗をすることもあります。
この出来事に関する調査には市民から賛否両論の声を頂いています。
ただ我々とすれば、自分の仕事を全うするのみです」。


報告のなかでは、オスロの爆発現場にほど近い場所に位置する『VG』と『Dagsavisen』が、
被害に遭いながらも報道を続けた点が評価されています。
「気に掛かる点はUtøyaで被害にあった子どもに記者が接触を図っていることです。
ただUtøyaで起きたことは部外者からはわからない点が多かったことも留意する必要があります。
私はジャーナリストも人であり、今回の件はそれが試されたといえます。
誰もが人を傷つけるような意図はなかったと考えていますが、
このような惨劇では間違いや危険な判断をすることは簡単です」。


今回の事件では報道関係者が放送倫理に関する議論を行い、
時には難しい決断をしなければならなかったと彼はいいます。
「特に写真では広い範囲で遺体が確認できました」。
遺体の側に立つ犯人の写真は彼のイメージを拡散させると共に、
思想までも広げてしまう可能性を秘めています。
「今メディアにとって大切なことは、
自らの報道に責任を持つことと適正な距離感を持っていることです。
我々の調査にも厳正で適切な態度が求められています。
私はこの国のジャーナリストがこの組織に参加していることを誇りに思うし、
IJが継続できていることを嬉しく思っています」。


ただ載せるだけでは能がない。

Turbulence / Fred Thomas 2010年